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第1回:人事部の未来は“IT戦略部門”としての進化から始まる

公開日:2025.04.13

更新日:2025.07.14

筆者: 松木 剛

人事部のシステム投資の現在地はどこにありますか?

人事部長にお尋ねします。あなたは経営企画部長と人事戦略についてお話をしますか?

人事部のテーマが「業務効率化」に絞られていませんか?

情報システム化の話になれば、投資目的が最大のテーマになります。確かにコスト低減の話は間接部門としては通り易いし、投資効果も測り易い。しかし会社の将来やビジネスの成功からすれば、それで良いのかという疑問は常のアタマのどこかにあるのではありませんか?

改めてシステムに対する見方を変える時代

システム化と聞けば給与計算かという受け止めはさすがに古過ぎますが、それでもAIを本格的に活用していこうとしている今、人事システムが人事部門のシステムだとする考え方も改める時期にきています。インターネット時代に入り、間接部門は情報システムを経営のツールとして視野に入れるべきものとなりました。人事システムも、経営層から社員までを結ぶ、開かれた戦略プラットフォームとしての役割を担うようになってきたのです。

人事部門が“経営の変化”についていけない理由とは

俗に「システム化以前の問題」とされてしまう人事部の課題は何でしょうか。世の中の変化やビジネス環境の変化は、人材マネジメントの基本設計そのものに影響を与えています。制度や組織の再構築が迫られている中、企業のバリューチェーンに応じて人材をどう提供するかが人事部門の根本的なミッションであるはずです。そのための組織設計、制度設計、そして人材モデルが必要です。こうした構造に目を向けず、目先の効率化だけを追いかけていては、人事部門は戦略から取り残されてしまいます。

人事部門が戦略部門になるべき3つの理由

第一に、人的資源に関する情報はすべて人事部に集約されています。組織情報、人材情報、エンゲージメント情報などは、経営上の意思決定の鍵を握る資産です。第二に、人事部門は部門横断的に企業の全体像を見渡せる立場にあります。これは戦略実行における俯瞰的なマネジメントに直結します。第三に、人材のライフサイクル全体を通じてマネジメントできる唯一の部門であり、制度と仕組みによって経営の機動力を支える役割を担えるのです。

人事システムは“戦略実装のプラットフォーム”へ

経営ビジョンが方向を定め、人材モデルが制度設計を導く。そして人事システムは、もはや“運用ツール”にとどまりません。人材要件や組織設計をリアルタイムに検証し、構想段階から制度設計を支援し、実行後のモニタリング・改善までを通貫して支える“戦略実装プラットフォーム”へと進化していくのです。

AIの活用が進めば、人事システムは単に効率化を図るものではなく、未来の組織と人材の在り方をシミュレーションし、経営の意思決定にインテリジェンスを提供する存在になります。

人事部はこの変化の起点となる

業務とITは一体化しており、「システムは情報システム部の仕事」という時代は終わりました。人材マネジメントの未来を形にできるのは、ビジネス構造と人材の接点を理解している人事部門だけです。

制度もシステムも再構築が迫られる今、最も現場と経営の両方を知る人事部門こそが、その起点になり得ると私たちは考えています。これから数回にわたり、既存の人事給与システムの本質的な再評価と、制度や戦略とどう結びつけていくべきかを具体的に考えていきます。次回は、「レガシー」とも呼ばれがちな人事給与システムが、今も経営基盤としてどう意味を持つのかに目を向けます。

筆者プロフィール

情報処理技術者、システムアナリスト

松木 剛

松木 剛

株式会社新潟鉄工所において、労政(人事企画・労働組合交渉)担当として約7年、情報システム部門にて上流SEを5年、経営企画室IT企画担当マネジャとして8年勤務ののち、日本オラクルに転職。ERPのセールスコンサルタントを5年勤めた。
その後、ベリングポイント(現PwC)、NTTデータ経営研究所、タタコンサルタンシーサービシズ㈱(人事総務部長,コンサルティング部長)を経て現在に至る。
元ITコーディネータ、早稲田大学 大学院会計研究科 非常勤講師を10年間務める。『人的資源管理』担当

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