人事情報システム基礎講座

人事情報システム基礎講座

第2回「人事情報システム導入のプロセス」1

[ 掲載日 ]2023/10/10

[ 掲載日 ]2023/10/10

2)人事情報システム導入の必然性

 人事給与システムであろうと勤怠システムであろうと、情報システムの導入については
その必要性が経営に問われます。では、初めてシステムを導入する場合と、現在使用中の
システムを置き換える場合、この2つのシナリオについて考察してみましょう。

(1)新規導入の場合

 大企業では、通常、人事給与システムを使用していないとは考えにくいでしょう。
ただし、以前は自社で開発したシステムを使用していた企業が、それをパッケージソリューションに切り替える例もあります。ただし、これも実質的なシステムのリプレース(置き換え)となるため、これを除外すれば、実用的には中堅およびそれ以下の企業に関する話題になるでしょう。

 まず、冷静に現状を評価し整理することが大切です。通常、従業員の個人情報は保持しているでしょうし、履歴書や身上調書などは紙で保存し、鍵のかかった書庫に保管するのが一般的です。
 また、給与計算も行っているでしょうから、それを毎月電卓で計算したり、表計算ソフトを使用したり、必要な情報を社労士に提供して計算してもらったりすることでしょう。言い換えれば、アウトソーシングも行っていると考えられますが、これが一般的な状況です。

 ベンチャーや中小企業では、税理士や会計士を利用しながらも、自社で会計を行うケースが多いです。総務部門は経理業務を担当し、月次のキャッシュフロー管理が最優先課題です。
総務部門は経理業務から始まり、庶務業務を処理し、社会保険などの届出や給与計算は社労士に依頼しています。
企業の成長に伴い、ある日社長から「給与計算を自社で行おう」という指示が出されることもあります。

 給与システムなどの導入が社長からの指示であれば、企画書を作成することが許可されますが、その後は費用の問題が残ります。ただし、細かい社長であれば、変更がどのように影響するのか、コストはどのように変化するのかについて質問することもあるかもしれません。
「自分が提案したのに、資料を作成させられるのか」と不機嫌にならず、これを経営管理の一環として調査するチャンスと受け止めるべきです。

 すべての場合に共通することは、状況が変わることを詳細に把握する必要があるということです。前後の状態を比較することが重要です。導入前と導入後、これを整理するのが最初のステップです。その際に重要なのは、変化をどのような観点で説明するかです。経営の要素を切り口として整理するのがわかりやすいでしょう。

 経営の三大要素は、人(ヒト)、物(モノ)、資金(カネ)です。そして、物の中で「情報システム」があるので、それを「業務とシステム」に分解します。人に関しては、導入するシステムが「人」にどのように影響を与えるかを考えます。

 システムを使用するのは誰か? オペレーションを担当する人とサービスを受ける人を区別して考えます。
 オペレーションを担当するのは通常、総務(人事)部門のメンバーです。ポイントは、誰がそれを実行し、それができるのか、組織的にどのように運用されるのか、本社のみでしょうか、それとも事業所でも導入されるのでしょうか。

どのようなメリットとデメリットが生じるか、サービスを受けるのは総務(人事)部門のみなのか、社員にもメリットはあるのか、また、ミドルマネジメント以上の経営層にどのような影響を及ぼすかなどを考慮します。

 物としての切り口は、システムの機能分析になります。どのような機能が提供されているか、実行できることとできないことは何か、一般的な評価はどうか、使いやすいかどうか、使いづらいかどうかなどです。分からない場合は、提供企業に質問しても構いません。
 素人的な質問でも問題ありません。提供企業の役割は理解しやすく説明することです。
 現在の業務プロセスがどのように変化するか、仕事に費やす時間は増えるのか、減るのか、仕事の品質は向上するのか、手作業は残るのかなどを評価します。

 カネについての問題は最も厳格なものです。前後のコスト構造が変わることは確実です。これを確実に理解しておく必要があります。また、会計的な構造の変化も重要です。
 つまり、経費として計上されるのか、繰り延べ資産として計上されるのか、キャッシュアウトがどのように変化するのかです。忘れてしまいがちなのは、社内の人件費の変動です。
人件費の計算方法、つまり実際の社員の給与を元に計画するのか、モデル的な給与で人件費を計算するのか、これは経験がない人にとっては難しいかもしれません。資金の変化はグラフや表で示せると良いですが、できなくても少なくとも表を作成すべきです。

 これらの情報をまとめる方法はいくつかありますが、どんなに社長からの指示であっても、導入の目的である「なぜ導入するか」を外すことはできません。導入理由が「社長の指示」だけでは不十分であり、社長も気付いていない重要な目的が存在する可能性もあります。これらを明らかにするために、三大経営資源に分解して考えることで、理由が明確になることもあります。コスト削減のためなのか、情報の管理レベルの向上のためなのか、コンプライアンスの要件を満たすためなのかなどです。

 このように整理した情報をまとめて、「導入企画書」または「新システム導入提案書」として経営陣に提出します。