人事情報システム基礎講座

人事情報システム基礎講座

第13回「人事情報システム導入のプロセス」12

[ 掲載日 ]2023/11/13

[ 掲載日 ]2023/11/13

(2)パッケージ選定フェーズ

 2)ベンダーコントロール

 ① ベンダー選定の条件

 RFPを作成する前に、RFI(Request For Information:情報提供依頼)プロセスを実行していれば、ある程度選考の対象となる企業やパッケージは決まっていると思います。しかしRFPでは、具体的に導入を計画し、詳しい見積やFit&Gapなどを行う必要があります。いわゆる「冷やかし」はご法度なのです。提案する側も真剣勝負できます。もちろん、RFI時にも真摯な検討を行うことはいうに及ばずなのですが。

 提案するベンダーの立場でモノを考えてみると、少なくとも数千万円から億を超えるオーダの案件となれば、提案のための予算を決めたり人の手配などリソースの確保が前提となってきます。RFP対応は営業活動のひとつといっても、その回答や提案書を作成するには、多くのコストがかかってきます。
 従って、RFPを依頼するユーザ側にも真摯な態度で臨んで欲しいと考えています。

 このため声をかけるのも、途中で選考から漏れていくのも、選考の情報は適宜、対応してくれる先方の事情も考えて発信していかなくてはなりません。この段階でも、一方的に情報を要求するのではなく、ユーザ側から様々な情報提供を行っていくのがお作法だと考えてください。いずれ選考した場合は、導入を行う重要なパートナーとなるのですし、自社のビジネスに影響がでるような悪い評判が立つことは避けるのが無難です。

 統合型のパッケージはそれなりの規模の会社が開発・販売していますが、ソリューションベースのパッケージ、例えば勤怠や人事考課、目標管理、その他通勤手当に関する支援ソフトなど、それほど業容が大きくない会社もあります。そのため自社の基準からいうと、会社の規模や売上、社員数などからして取引が難しいとなる大企業もあります。単独でソリューションソフトの契約が難しければ、総合型のパッケージベンダと相談することもできます。更にインターフェースの課題や導入の日程調整など、PMOの仕事が多くなる場合は、まとめて管理していった方が良いケースもあります。理想的な組み合わせでシステムをまとめ上げるのが理想ですが、契約等を考えると、個別に契約するよりとりまとめていただいた方が良いということもあります。

 この場合考えておかなくてはならないのは、当初提案された組み合わせと異なる組み合わせの提案が欲しくなったとき、非公式に組み合わせの変更が可能かどうか、確認する必要があります。そんなときは、提案ベンダーへ率直に打診してみることをお薦めします。可能な場合とできない場合があります。

 人事給与システムの世界も例に漏れず、世間は狭く、信頼のおけるコンサルタントやPM経験者は業界の人なら知っています。その情報をどう拾っていくか、またそういう人材のいるベンダーをどうやって捜すか、実はパッケージの機能うんぬんよりも、その方面の情報の方が大事だったりするのです。要は人次第というのはどこの世界でも同じですね。

 ② ベンダーとの接触(質疑応答)

 RFPには一通りのことを記述したつもりでも、これを読み解き、他社を凌駕する提案書にするために、受注に熱心なベンダーは苦労を厭わず、いろいろな事を問い合わせてきます。まず質問が全くないという状況はあり得ないと考えた方が良いでしょう。

 そのために、2週間ほどの提案書作成期間でも問い合わせ対応を準備しておくことが大事です。方法は現在ではメールがほとんどで、電話では受け付けないという事例が多いと思います。これには訳があって、公平を期するため質問と回答は、ベンダー間で共有するルールがあるためです。つまり、こういう質問があって、当社はこう答えたという情報を共有して、各社からより良い提案を受けるのです。

 一部には、鋭い質問や核心をついた質問は、ベンダーの競争力のたまものなのだから、公開しないでほしいという声もあります。しかし、提案を受ける側としては、より多くの質の良い提案を求めているのだから、RFPの不備や、より精度の高い、また高品質な提案が期待できるのなら、提案のプロセスは質的に高まった方が良いに決まっています。

 RFPには、質疑応答があった場合は共有するということを記述しておくことが必要です。では逆にくだらない、自明の質問があった場合はどうするのが良いのでしょうか。聞くまでもないことではないかと削除することはありません。そのまま共有するのです。つまり、提案側ではどのベンダーがどういう質問をしているかで、そのベンダーの提案力がある程度予想がつくのです。くだらない質問をするベンダーはそれなりに淘汰されていくのです。しかし逆にそういう質問をして油断させるという猛者もあるから注意も必要ですが。

 質問内容から、ベンダーが気にしている、またはポイントとなる要素も分かって来ることも多いのです。機能について詳細な要求事項を聞いているベンダーは、その機能について不安をもっていたり、またアドオンなどの解決点が見い出せずにいるケースもあります。つまり、質問をしてきた箇所について、どんな提案をしてくるかを注視しておく必要もあります。従って、機能的に難しい要求や妥協しても良い部分については率直に回答することが大事です。どうでも良い機能などを強く要求する回答をぶつけると、双方に良い結果になりません。

 提案に必要な情報としては、例えば予算感などをベンダー営業が打診して来ることがあります。初めから上限はこれこれと情報を流すユーザは少ないと思いますが、予算については発注側と受注側の真剣な主戦場の情報なので、当たり前のことですが扱いには注意が必要です。ナマの数字が一人歩きして首を締めてしまうこともあります。その点、営業マンとの接触は注意して行うべきで、玄関払いをするのか、うまく接触して裏口であしらうのか、上司と相談しながら進めることをお勧めします。

 また最終的に「調達」や「資材」などの部門の決裁が必要な場合は、伝えておくことは必須です。

 ③ 場外攻勢

 「場外攻勢」、つまりは公式・非公式を問わず、RFPをベースとした応酬ではなく、営業マン等とのやりとりをどう捌いていくかは大きな問題です。

 世の中には様々な業務パッケージが存在します。研究すればするほど、どのソフトウェアにも良いところと悪いところがあり、100%完璧なものは存在しないことが分かってきます。だからといって、どんなものを選んでもかわりはないと言ってしまうと、身も蓋もありません。要は、凸凹のあるのは当たり前として、より機能の高いものを選択するというより、自社の事情や環境に合う、バランスの取れた製品を選択するのが大事なのです。機能表の〇×だけで選んでしまうと後悔することになります。

 売る側の立場としても、いかにシェアの高い製品がライバルにいても、ある程度実績のある自社の製品がその会社に「適う」という前提、または確信があるから一生懸命に売り込んでくるわけです。そうでなければ、闇雲に攻勢をかけて無駄な営業パワーを浪費することはありません。無能な営業ほど、後のことを考えずに事案を追い続けることになります。

 実はRFPを完璧に作ることはできないという人もいます。つまりは、ドュメント化できない要素がたくさんあり、立派なRFPで選考プロセスを進めても、その結果は間違いであったという事例もあり、その失敗原因はRFP外に存在したという話が少なくないからです。例えば、自社のパッケージ導入の潜在力を過信していたり、情報システム部門の実力者との相談が不十分であったり、更には恥ずかしくて記述できない事情があったりと、変数が多すぎて書けないのですが、とにかくRFPを信じすぎないことが大事です。

 経験の深いパッケージベンダーや導入コンサルの営業は、こうした事情をよく知っていて、どこどこでどんな失敗をしたとか、こうした情報の拾得に余念がありません。もちろん、こうした失敗事例についてのアウトプットは、営業によって異なります。話半分或いは30%程度でも聞いておいて損はありません。別のベンダーに裏をとるということもありです。
 カタログやHP、提案書の営業項目には成功事例ばかりが載っています。失敗の原因がどこにあるのか、なかなか難しい問題なのです。複合的な要素が絡まっているというのが実際ではないでしょうか。こうしたネガティブ情報をどう収集しておくかは、企画担当者の重要な仕事です。

 よく「営業マンはいい話しかしない。だから信用ができない」という人がいますが、それは自分のコミュニケーション能力が低いといっているに等しいかもしれません。そういう営業がいることは事実なのですが、自分が納得がいかない、或いは有益な情報交換ができないなら、無能な営業マンの上司を呼んで、担当替えを依頼すれば良いのです。ベンダーも仕事なのですから、喜んで要求に応じるでしょう。建設的なクレームについては、ベンダーの上司も対応を考えるはずです。

 「大丈夫です、グリップしています」と得意気に話す営業マンには、「どうグリップしているのだ」と通常なら上司は裏を取ります。一緒にお酒を飲んだとか、他社の知らない話を聞いたとかいうのではなく、自社の等身大の姿がクライアントに与えられたかどうか、お客様の本当のニーズがどこにあるのかなどを率直に会話することができたかどうかが大事なのです。現実にはそういう営業マンは少ないのが実情です。なぜかというと、「ソリューションを売る」というのは最高に難しいセールスだからです。従って、場外乱闘を覚悟して、「営業を育てていく」という姿勢をもっていただけると嬉しいのですが、まずはまじめな営業を捜すことから始めましょう。