第15回「人事情報システム導入のプロセス」14
[ 掲載日 ]2023/11/30
[ 掲載日 ]2023/11/30
(2)パッケージ選定フェーズ
4)ベンダー交渉と契約
様々な要素で評価を行い、提案価格も予算内であれば、一等賞を取ったベンダーとの契約を行うことになります。提示された提案書の内容がすべてとなる事案はありません。やはり細かい部分での確認が必要です。
① 基本方針の確認
例えば、これこれの前提でお願いする、その前提でやりますと始まったのに、取ってしまえばこっちのものと、約束を違えるベンダーがいない訳でもないのです。実はかくかくしかじかで、こういう条件でしかできません、と平気で前言を翻すベンダーも皆無ではないのです。特に公共では入札が伴うので、なかなか一度決まったものを覆すのは大変です。しかし、前に記したように、次点を用意しておけば、そういった人質をとったような契約にはならないはずです。
ポイントは、予算、日程、導入スキーム(パッケージやソフト、体制、手法)、範囲(スコープ)などが定量的に明確にされることです。この中には契約に明記されない約束などが入りますが、気になるものは確認しておくことが必要になります。提案書に書かれたことは履行する義務があると考えて差し支えありません。大事なプロジェクトマネジャの氏名が変わっていたりすることは結構あったりします。重要なポイントは妥協しないようにしましょう。
昨今では、提案価格などは要件定義後に確定するなどのただし書きがあるのが普通になっています。特に不足する機能についてのアドオンが予定されている場合、ベンダーとクライアントの初期的段階でのギャップは相当あると思って良いでしょう。可能な限り標準でやるという方針でいても、見えない要件がそこかしこに隠れています。ですから、基本方針として定めていたとしても、変更要素がある場合にはどうするかを協議しておく必要があるのです。
② ギャップの解消(機能/価格/その他条件)
最終的には価格にすべて収斂していく訳ですが、機能や日程など、一定の条件で決めるにしても、ギャップの吸収をどうやって行うかを考えておくべきです。例えば、機能のギャップはあっても然るべきですが、プロジェクトの制約としてどこまでを許容するか、絶対上限を作るなどの工夫があって良いのです。パッケージの場合、ベンダーのコンサルは機能を熟知している前提で対応可能なレベルを、また導入コンサルは、BPRやワークアラウンドと呼ばれる回避策を考えることができます。
契約前にどこまでできるか決めることには限界がありますが、無条件には認めないという姿勢を示しておくことが必要です。これは、ベンダーとの関係よりも、社内のコンセンサスという意味で大事になります。プロジェクトのメンバーは勿論、人事部門の業務員や、その他ステークホルダーに、目的の徹底と資源の限界とのバランスを考えるべきと、啓発指導を行わなければなりません。この仕事はプロジェクトオーナーと呼ばれるべき立場の人が行うのが普通です。経営に近い方はこのあたりの感覚は鋭いので、少し解説すればたちどころに理解していただけるでしょう。
こういった話は、契約前に一旦決めておくべきものです。またプロジェクトが始まれば、いつでもどこでも発生する問題なので、うまく取りまわしのできるよう、PMは常に気をつけておく必要があります。
5)報告
① 社内向け
パッケージの選定が終わったら、社内に報告をすることになると思いますが、社内であれば率直に選定理由を説明できると思います。純粋に機能だけで決まることは少ないと思われます。予算なのか、会社対会社の関係なのか、ITポリシーに準じたのか。更には会社の戦略に応じたのか等々。関係する部門や人物に、注意深く理解を求める必要があります。
技術担当役員や情報システム担当役員などへのご説明も、いわゆる「根回し」がうまく行っていれば問題は少ないはずです。彼らが問題とするのは、人事部門のシステムではあるが、基幹系のシステム化方針と軋轢はないか、現場の納得は得られているのか、更にはプラスアルファがあるのかないのか、などにあります。導入前から色々と雑音は出てきますが、きちっとした手続を踏んでいれば堂々と説明すればよろしいと思います。しかし上場している企業などは、説明責任に重点をおいていることもあり、理論武装も必要になるでしょう。
② 参加ベンダー(特に選にもれたベンダー)
前にも言及しましたが、選に落ちたベンダーについては、十分な対応しておくことが望ましいと思います。はじめから本気になっていないベンダーにはおざなりでも良いですが、真剣に提案してくれたベンダーを疎かにしてはいけません。何年かたってまたリプレースなどの企画が出ることもあります。必要以上に気にすることはありませんが、率直に情報を伝えることが大事です。
提案をした側にも、どうしてダメだったのかを内部で報告する必要があります。競争的な予算を出してきたのか、提案検討活動が自分たちより良かったのか、製品に差があったのか、いつもやったりやられたりしている会社同士なら、今回の敗因はここでしたと納得の行く敗戦説明ができるのです。
理想をいえば、「プレゼンがダメでしたね」とか「提案書のココが良くなかった」などの具体的な指摘をされれば嬉しいのですが、次の改善につながるかどうかが彼らには問題なのです。そういうレビューを望まないベンダーなら、次もあまり期待できないと考えた方がよいでしょう。いすれにしても、選に漏れた会社の製品に見どころがあるなら、営業マンを育てるという気持ちで、コミュニケーションをとっておくことを考えてみてはどうでしょうか。