人事情報システム基礎講座

人事情報システム基礎講座

第11回「人事情報システム導入のプロセス」10

[ 掲載日 ]2023/10/30

[ 掲載日 ]2023/10/30

(2)パッケージ選定フェーズ

 1)RFPの作成(Request For Proposal)

 人事情報システムの導入(リプレース)の決裁が得られますと、今度は実際のシステムの選定フェーズに入ることになります。手組、つまりカスタム(スクラッチ)開発の場合、自社のシステム部門かSIベンダーを決めて基本設計を開始しますが、近年は人事給与等のシステムにおいて、パッケージを使って導入することがスタンダードになりました。従って、パッケージの導入が次フェーズの課題になります。

 自社の要員を使ったり、戦略的な理由で導入を行うことで導入ベンダーを決めている場合でも、どのパッケージを使うかは、オープンな手続でこれを行うことが望ましいと思われます。その理由は、パッケージは基本コンセプトや機能が製品によって異なるためであり、提案を受けて比較検討した上で決定するというプロセスが必要になるのです。
 また、経営層に対しても、特に上場している場合では、高額な資産(最近はクラウド化しているため、資産ではなく経費になりますが、高額である点では同じ)として導入するシステムの決定過程の説明責任が発生するからです。
 また、リプレースや更新についても、その効果やメリットを十分に理解したいという期待もあります。

 ① RFPの意味(Request For Proposal)

 ひと昔前まではありませんでしたが、ここで「提案要求」というイベントが登場し、そのドキュメントとして「RFP(提案要求書)」なるものの作成が必要となってきました。
 つまりは複数のベンダーに対して、自社の経営課題、つまりここでは人事給与システムの導入ですが、この経営課題の解決策を求めるものとして、導入を行うベンダーに提案を求めるものです。

 RFPの作成は、特にパッケージ導入だけでなく、カスタムソフトの開発でも行うプロセスなのですが、パッケージアプローチの場合はふたつの意味が生じます。それは、利用するパッケージの選定であり、それを使ってどう経営課題を解決するかのふたつの問題です。しかしこれはセットであり、手段と目的の達成を同時に提案してもらうことになるのです。

 BPO(Business Process Outsourcing)や給与などのアウトソーシングの場合においては、そのシステム、つまり手段がユーザに関わらないケースがあります。ベンダーがどんな手段を使うかはユーザは関知しないケースです。ユーザの望むアウトプットや約束されたサービスレベルの提案とそれに伴う契約で良いことになります。しかし、人事給与システム導入のような例では、ベンダーの提案要求の回答は、「どんな『パッケージ(手段)』を使ってユーザの『経営課題の解決(目的)』を達成するか」といった形でソリューションを提案することになります。

 ベンダーからすれば、ユーザはどんなことで困っているのか、それはどんな解決法があるのか、自社のソリューションで対応できるのか、結果として満足してもらえる予想がつくのか、ビジネスとして成立するのか等々を検討することになります。
 単に、人事給与システムのパッケージがあります、これこれ幾らのご予算で導入できますなどの提案ではNGなのです。そういうアプローチでよしとしているベンダーもありますので、注意が必要です。

 そこまで深く考えていない、とにかく安く人事給与システムを導入したいというユーザなら、機能比較と価格競争になってしまいます。そういう経営課題の解消で良いならコンサルタント的な要素はなくなるので、ネットを探してパッケージを見つけ、営業マンに連絡すれば用は足りてしまいます。
 しかし本当にそれでよいのでしょうか。
 システムを導入することが目的になってしまっているこういうケースの場合、真の経営課題の解決は、導入を企画した部門や担当者に委ねられるということになります。

 一部には、「人事給与はインフラだ。従って、標準的な機能で安く安全に導入し、経営に直結する課題については、個別に対応する。また業務の標準化を一番に考え、カスタマイズもアドオンも極力せずにスタンダードな業務にまとめていく。場合によってはタレントマネジメントや分析系のシステムを別途検討するのだ」という企業もあります。
 これはこれでひとつの方法で、全然ありなのですが、多くの企業はここまで割り切れてといません。
 せっかく統合システムとして人事パッケージをいれるのだがら、期待するのは当然だという経営者は少なくありません。

 従って、それなりの意志を込めた「提案要求書」を作ることになりますが、では然るべきRFPの中身はどんなものになるのでしょうか。

 ② コンテンツ(目次)

 RFPを構成する情報は過不足なく記述したいところですが、次に例を挙げるのでご参考にしていただきたいと思います。

 【カバレター部分】

◆ 当該事案の背景(経緯)と目的
・これまでどういう状況にあったか、検討を行ってきた経緯や背景の説明
・問題の所在はどこにあるか、何を目指しているのか(経営課題の説明)

◆ 目標
・具体的な目標とすべき事項(業務面、システム面)

◆ 選定日程
・本RFPの提出期限、方法、資料の構成
・提案説明会の案内(日時、方法(リモート等)、場所、出席者要請等)

◆ 問い合わせ方法等
・問い合わせ先(担当者)
・方法(電話・メール)
・制限事項

用語
・自社特有の用語の説明等

 【本文】
ーーーーー

1. 構築プロジェクト概要
1.1 プロジェクトの背景と目的
1.2 本システムの目標
1.3 対象範囲(本社・関係会社)
1.4 本プロジェクトの体制
2. 要件概要
2.1 人事管理機能の概要
2.2 給与管理機能の概要
2.3 福利厚生管理機能の概要
2.4 就業管理機能の概要
3. システム詳細機能
3.1 人事システム機能
3.2 給与システム機能
3.3 福利厚生システム機能
3.4 就業システム機能
3.5 他システムインターフェース
3.6 その他
4. 前提となる概要情報
4.1 想定ユーザ数(業務部員・管理職社員・一般社員)
4.2 ハードウェア
4.3 ソフトウェア
4.4 ネットワーク
4.5 クライアントPC(タブレット端末/キオスク端末)
4.6 セキュリティ
4.7 データ量
4.8 トランザクション
4.9 帳票管理
4.10 データの取り込み
4.11 現行システムの状況(人事・給与・厚生・就業・WEB)
5. 提案内容
5.1導入日程
5.2 導入手法
5.3 プロジェクト体制
5.4 人事・給与・厚生・就業・申請システム費用見積
5.5 詳細機能要件についての対応可否(標準/カスタマイズ/BPR)
5.6 プロジェクトマネージメント手法
5.7 システム問合せの対応について
5.8 人事・給与制度変更時の対応について
5.9 システム移行要件
(移行作業内容・日程・体制・ツール等)
(ユーザ作業項目と概算工数)
5.10 同様事案の過去実績
5.11 当社課題を解決のための特別提案(任意)
6. アウトソーシングを行う場合のための別提案(任意)

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 こういったRFPは慣れた方にはなんでもありませんが、人事部門が片手間にやると、かなりの労力を取られます。
 また、ベンダーに説明できるまでこなれていないとなると、企画そのものから外部の手を借りた方が良い場合もあります。
 システム部門のお手伝いも、うまく支援できるかどうかは、パッケージ導入の経験がモノをいいます。

 各企業の事情に応じて、どこまで公式にやるのか、省略できるのか等、よく検討された上で手をつけることをお薦めします。
 良きパートナーである導入ベンダーを見つけてゴールを目指してください。