第9回「人事情報システム導入のプロセス」8
[ 掲載日 ]2023/10/17
[ 掲載日 ]2023/10/17
(1)システム更新の企画段階
9)経営会議対策
複数のベンダーによる提案で決める前提で、RFPを依頼するベンダーが決定したら、企画書にその旨を記述して、経営会議で決定してもらうための準備に入ります。準備についてはいくつかポイントがあります。
① 予算感の策定
RFIフェーズで最もやっかいなのは、細部も決まっていないシステムの導入についての予算感を探ることです。ベンダーにお願いしているのは、ある前提で提出してもらう「参考価格」です。それゆえ、この概算費用については誰も責任が持てない金額ですが、これで社内は稟議を通さないといけないのです。
一番やりやすいのは、最も大企業向きのパッケージベンダーの参考価格を使って予算取りをするですが、これで値頃感ができれば幸いです。しかし現実問題としては、「高すぎる」という感覚が先に立つでしょう。ではどうすれば良いのでしょうか。
よく「数字だけが先走った」と、プロジェクトではある前提で出た見積がこれで決定のように流れてしまうケースがあります。システム開発などについて十分な知見がある予算部門が理解してくれてれば良いのですが、概算見積や参考価格が決定打のような扱いを受けることだけは避けて欲しいところです。
ともあれRFI段階ではベンダーはリストプライス、つまり定価ベースで数字をはじくので、ディスカウント率を掛けて予算を作ることが必要となります。この掛け算はプロジェクトの規模が大きくなればなるほど、ディスカウントも大きくなるが、油断は禁物です。誤解を招くので具体的な率は公にはなりませんが、経験からどうなのかとシステム部門に聞くのも良いかもしれません。
また現在利用中のシステムはどれほどだったのか、調べておく必要があります。それは、必ず「前回はどうだったか」「現在のシステムと比べてどうか」等の質問がでるからであり、そういう比較でしか決められない経営もあるからです。いわゆる前例主義ですね。
企画書に記述する予算については、要件定義によっては費用が増えるケースがあることは勿論記述する必要があります。しかしプロジェクトの遅延等で発生する追加予算等については、責任の所在も問題になるので、書き切れないことが多いでしょう。予算については、包み隠さず、これらリスクについて説明しておくべきでしょう。
この部分については、新規導入にかかるコストだけではなく、保守やシステム維持のための見えない間接コスト等もしっかりと記述し、導入前後の比較ができると説明しやすいと思われます。またベンダーに委託できないような平行プロジェクト、例えば意識変革のためのサブプロジェクトや教育費用、担当部門で作成できないようなドキュメント類の作成費用など、よく情報システム部門や、場合によってはベンダーに相談するのが良いと思われます。
② 根回しについて
企画書を作成する段においても、各方面との事前相談が必要だと説明しましたが、一部外資系企業などと異なり、日本の企業では事前に「根回し」が必要だと思われます。特に、情報システム部門と予算管理部門は重要な交渉相手です。
まず予算管理部門は、会社全体の予算を管理しているので、優先順位が大事になってきます。「戦略的」という言葉を使うのなら、どの部門が「戦略的」であるべきかの合意が必要になります。つまり限られた会社の資源(お金)を、会社の直面する問題解決のどの部分に使って行こうか日夜頭を悩ませて部門なので、非常にシビアに査定がかかります。
予算管理は「出入り」を意識した企画業務です。特に人事などの「間接部門」だからコストは低ければ低いほど良い、というポジションに甘んじている人事部であると、ハードルが高い問題ということになりましょう。アウトソーシング化してコスト圧縮を図りますという、予算部門が喜びそうな提案なら喜び勇んでいけるかもしれませんが、人材育成を前面に出したり、タレントマネジメントのようなちょっと前向きで、企業人でも理解している人が少なそうな領域が入っている場合は、相応の「作戦」が必要となります。
敢えていえば、この部分はトップダウンを使うと効果があると思われます。つまり、経営陣に動いてもらうのです。「人が大事」とか「当社の資産は社員である」などの外部アピールがホームページやアニュアルレポートなどに乗っている会社はこの手を使うのがよろしいでしょう。本音と建前があることを前提に、人事部長や人事担当役員にお願いするのです。これには、人事部門内部では調整が取れていることが前提になりますので、ご注意ください。そうでないと足元を掬われることになりかねません。
また、他に効果があるのは、CIO(情報担当役員)やCTO(技術担当役員)に味方になってもらうことです。「ヒト」が大事⇒当社のシステム活用は弱い⇒人事システムをテコにエンジニアを強化しよう、等々のシナリオを作り、協力してもらうのです。うまくいけば、「では研究所の誰々と調整してくれ」などの指示がもらえるかもしれません。
情報システム部門は、正直人事給与システムには興味がありません。結構、この領域は情報システム部内では継子扱いされることが多いのです。ワークフロー等のインフラ的要素のある部分には興味を示しますが、それ以外は関わりたくないのです。従って、彼らの負担にならなようにお膳立てするなどの、事前の準備と耳打ちが必要になります。
また、ERP等で苦労している状況から、「更に人事システムもやるのか」とうんざりされないような工夫も必要です。この辺りで現場の不安感を少しでも払拭する努力をします的なアプローチをしておいて、人事部長に情報システム部長に話を徹してもらうよう、協力を依頼しましょう。
その他うるさ方がいる部門には、個別に「相談」「ご意見拝聴」のような形で情報を流しておくことが大切です。