人事情報システム基礎講座

人事情報システム基礎講座

第6回「人事情報システム導入のプロセス」5

[ 掲載日 ]2023/10/17

[ 掲載日 ]2023/10/17

(1)システム更新の企画段階

 6)いわゆる「戦略性」に言及

 導入企画書に「前向き」な言及をおきたいと考える人事企画マンは多いです。この部分を提案ベンダーの営業トークを利用するのは勝手だが、あとで自分の首を締めることになりかねないので注意が必要です。話半分より2~3割程度に聞いておいた方が良い提案書が多すぎます。

 人事関連システムの戦略性というものは、「ない」といっても差し支えないのではないでしょうか。断言はできないが、もし「戦略性」があるのならシステムにあるのではなく、どんなシステムを取捨選択するか、自社のビジネスモデルを支える人事施策を実行するためにどんな情報システムを実装するかにあると考えます。システムを導入したからといって、それ自体で人事施策が戦略的になるというような夢の様な話はありません。

 ただ人事情報システムを構造化した上で、どういう捉え方をすれば良いかという問題は残ります。つまりシステムはそれ自体に戦略性はないが、その特性や制度・業務との関連で、選択すべき考え方の基礎や導入の優先順位などを間違えないようにする指南があっても良いと思います。

 人事関連の情報システムに対する考え方のアプローチには切り口があります。それは、お金を使うべきシステム領域とコストコンシャスであるべきシステム領域ということになります。
 人事関連システムは3層からなります。一番下に位置する、最も基本的な部分から説明しましょう。

 3層目は、インフラに近い部分であり、社歴と個人情報を管理する機能、給与計算に関係する機能、福利厚生等を管理する機能などです。
 これは企業の規模にも関係するが、およそ会社形態の団体であれば必須の機能でしょう。ただ、この領域には差別化は必要ありません。正しくやって当然の業務の世界であり、率直にいえばアウトソーシングの対象領域です。

 逆に一番上に位置する1層目は、人事部がユーザではない、業務の最前線にいる社員や管理職が使う領域になります。
 実はインターネット化以前は、人事部員の人間系のインターフェースであった部分です。人から見える人事部の姿です。電話であったり、人事部の脇にある相談コーナーや小会議室などで交わされていたコミュニケーションです。勿論、ネット化された時代でも、ヒト対ヒトのコミュニケーションは、大事なインターフェースであることに代わりはありません。この部分が縮小されるというより、ネットでより細かく対応されていくと考えるべきでしょう。システムで代替したからといって、社員と直接会話する時間を縮小しても良いというのは本末転倒です。

 この1層目には、個人情報の提出・申請・決裁などのプロセスや、部下の情報や自分の情報や会社の状況を閲覧する機能、従来紙で行われていた人事マネジメントをフロー化したものなどが含まれます。セルフサービスと呼ばれる機能です。前提としてPCなど、情報機器の配備や社員のリテラシー等の環境向上が求められます。製造業の現場や小売り、サービス業等では難しいところもあるでしょう。

 そして2層目になります。ここにお金をかけるのがポイントですが、もし「戦略性」を謳いたいなら、ここが力をおくべきポイントになります。

 2層目に検討されるシステムは、サブシステムとして存在するのが自然だと思われます。つまり、総合的なシステムとして「帯に短し、襷に...」というのはなるべく避けたいです。
 従って、自社にマッチしない準備されたシステムより、より貪欲なシステムが望まれて良い領域です。

 ここにおかれるのは、人材マネジメントに合わせたアプリケーションになるはずであり、例えば等級制度に合わせた評価システムや、人材育成を対象としたOJT等が該当します。また最近注目を浴びているタレントマネジメントの領域になりますが、後任者育成管理システムや外部市場も対象とした要員プラン、更にはビジネスモデルの変革に対応した人件費や業績と連携したコストプランニング等のシステムが考えられます。

 すでにWeb化されたパッケージが当たり前になっているので、こういった部分については、クラウドで提供されているパッケージを検討するのも良いでしょう。ただ、あくまで標準でしか使えないようなら、自社の戦略的といえる重点施策がうまく当てはまるものであるかどうかの事前の慎重な検討が必要です。どこまで、要求に合わせられるのか、基本コンセプトから外れるようなパッケージを選択するのは本末転倒になります。

 ここでもうひとつ重要なポイントがあります。
 人事の重点施策は、自社のビジネスモデルが変化して、供給すべき人材モデルに変化が生じたときには、それに追随したものになることを念頭におくべきです。
 システムの要件としては、資産的な評価が5~6年という時間的な制約をもつものであるかどうかを検討します。システム自身が柔軟に対応できるものであれば良いですが、市場の環境が激変して、自社の人材モデルがとっくに変化しているのに、システムの会計的評価のために、旧態以前たるシステムを使い続けなければならないというのは困ります。評価損を作っても更新していけるのであれば良いですが。

 人事の人材モデルを端的に表している等級制度は、基本的に未来永劫続く絶対的なものではありません。敢えて申し上げるか、憲法の第九条のように、変える変えないの議論の対象ではありません。ビジネスモデルが変わって人材モデルが変化したときには、現状に合わせて再検討する対象です。多くの会社がなかなか柔軟にできないのは、簡単にできないからであって、本当はいつも検討の対象に上がっているに違いないです。

 「同一労働同一賃金」という問いにどう回答していくのか、グローバル人事と国内人事の整合性をどうとっていくのか、更には、LGBTQやジェンダーフリーのような多様化にどう対応していくのかを考えると、それらの面倒な難しい人事管理を支えるシステムには、多くの課題が突きつけられるに違いないです。
 いずれは、第3層のインフラ部分にも影響が及ぶに違いないですが、少なくとも、第2層の戦略的テーマにおいては、喫緊の経営課題とロングレンジの命題に対して、人材マネジメントとして対応していくかを考える必然性が高まっています。